化学の特許なら東京、秋葉原のリュードルフィア特許事務所にご相談ください。

ニュースレターNo.4 「外国に特許出願をするには」

<概要>

今回は、外国出願について書いてみたいと思います。
外国へ特許出願するには、基本的には、以下の3通りの方法が考えられます。
(1) 各外国に直接出願する方法 (直接ルート)
(2) 日本国に出願した特許出願に基づいてパリ条約の優先権を主張して、各外国に夫々出願する方法 (パリルート)
(3) 特許協力条約 (PCT) の国際出願制度を利用して、各外国を指定国として日本国特許庁に出願する方法 (PCTルート)
通常、発明を完成しますと、まず、日本国に特許出願をしますので、余程特殊な場合を除いて、直接ルートが用いられることはありません。直接ルートが使用される殆どの場合は、米国へ仮出願 (Provisional Application) を行う場合です。
米国特許法第102条(e)の適用を確保するためにはこの米国への仮出願は有用です。どのような場合に仮出願をする利益があるのでしょうか。

この仮出願については後で触れます。

実務上、従来はパリルートを使用することが多かったのですが、近年は、パリ条約の優先権を主張するか否かにかかわらず、PCTルートを使用する出願人が増えてきているようです。

PCTに関しては、既にご存知と思います。PCTとは、1970年ワシントンで作成され1978年に発効した特許に関する多国間国際条約です。特徴的な制度として、国際出願制度、国際調査制度、国際予備審査制度、国際公開制度があります。

読者の皆様におきましても、既に、PCTによる国際出願制度を利用されている方は多いと思います。この国際出願制度は、同一発明を多数の外国に出願するために非常に便利です。この国際出願制度を利用すれば、一つの国際出願を一つの国 (受理官庁) にすることにより、その出願日から全ての指定国における国内出願としての効果を得ることができます。例えば、日本国特許庁を受理官庁とし、指定国として、欧州特許機構 (EPO)、米国、オーストラリア、中国、韓国を指定して、日本語により国際出願することができます。この一つの出願により、上記の各指定国に夫々、特許出願したのと同様の効果が与えられるのです。

国際出願制度を利用するメリットは何でしょうか。まず、挙げられるのは出願時に翻訳文が不要であると言うことではないでしょうか。翻訳文は、原則として、各指定国への国内段階移行時 (指定国により異なりますが、原則として優先日から30ヵ月以内) に提出すればよいのです。上記の各国について、夫々、出願するとすれば、出願時には英語、中国語、韓国語への翻訳が必要になります。そして、殆どの場合が、日本国への出願に基づいて優先権を主張して各国へ出願するのですから、優先期間ぎりぎりに各国に出願するようなときには、これらの言語への翻訳は容易ではありません。このような場合に、日本語で日本国特許庁に出願できる国際出願は非常に便利です。

次いで挙げられるメリットが、国際調査制度及び国際予備審査制度を利用できることです。国際調査においては関連する文献の列挙のみならず、特許性に関する見解書が作成されます。国際予備審査を請求すれば、更に、報告書が作成されます。これらを検討して、特許になる可能性が低いと判断した場合には、この時点でこの国際出願を断念することができます。

これにより、各指定国への移行手続きを回避できます。パリルートを使用した場合には、翻訳料、その他の出願に係る費用が必要ですが、これを軽減できると言うメリットがあります。例えば、上記のように欧州特許機構 (EPO)、米国、オーストラリア、中国、韓国にパリルートで出願するとなると、英語、韓国語、中国語への翻訳が必要となりますが、これを回避できます。この翻訳に要する費用はばかになりません。

2004年に改正されたPCTでは、国際出願をすれば、全ての加盟国を指定したことになります。各指定国への移行は、原則として優先日から30ヶ月です。従って、各指定国への移行時に再度、出願国を考慮することができると言うメリットがあります。即ち、出願時には、欧州特許機構 (EPO)、米国、オーストラリア、中国、韓国に出願しようと考えていても、移行時に不要と考えた国を削除することができます。また、別途、新しい国に出願することも可能なわけです。

一方、デメリットもあります。上記の欧州特許機構 (EPO)、米国、オーストラリア、中国、韓国を変更することなく、これら全ての国に移行する場合には、PCTにおいて必要な費用が、パリルートによる出願に必要な費用に丸々上乗せされてしまうと言うことです。

日本国特許庁を受理官庁として国際出願をした場合に、国際調査の見解書及び国際予備審査の報告書において特許性に関して肯定的な見解を得たとします。日本国特許庁における国際調査及び国際予備審査は、やはり主として日本語の文献に基づいて実施されます。肯定的な見解を得たとしても、各国で再度審査されます。従って、肯定的な見解が覆されてしまうこともあります。もちろん、その逆もあります。国際調査の見解書及び国際予備審査の報告書は絶対的なものではありません。

以上のことから、PCTルートを選ぶか、パリルートを選ぶかは、優先期間の残り、出願国の数、発明の特許性の程度、及び発明の重要度等を比較考量して、ケースバイケースで決定すると言うことになります。

2. 次に、米国の仮出願 (Provisional Application) について簡単に触れます。最近、日本でもこの仮出願が重視されるようになってきました。その理由は、仮出願をすれば、その仮出願の日から米国特許法第102条(e)の先願としての地位を得ることができるからです。また、仮出願は日本語で出願でき、仮出願自体は英語への翻訳が不要であると言うメリットもあるからです。

ご存知のように米国では、特許法第102条(b)に規定するように1年間のグレース・ピリオド (one year rule) が設けられています。即ち、米国特許出願日前の1年以内にその特許出願に係る発明が刊行物に記載された等の事実があっても、その事実は、その特許出願の新規性を阻害する理由にはならないのです。日本で言う新規性喪失の例外規定に類似しています。

このグレース・ピリオドは、発明を公知にした行為が真の発明者によるものか否かにかかわらず適用されます。真の発明者又は第三者の行為により公知になった発明について、真の発明者が、その発明について特許出願する場合には何ら問題はありません。しかし、公知になった発明に関して、第三者が特許出願すると言うこともあり得るのです。また、公知になった発明と同一ではないとしても、公知になった発明に対して進歩性の疑わしい別発明に関して、第三者が出願すると言うことは大いにあり得るのです。最近このような出願が時々見られます。第三者が、例えば、公開になった発明を見て、それを基に進歩性の低い別発明を米国に出願した場合、基本発明の公開が先行技術としての効果を有しないとなれば、基本発明の出願人にとっては重大な問題です。

例えば、日本国に特許出願をし、それに基づいてパリ条約の優先権を主張して、指定国として米国を含む国際出願を日本語で日本国特許庁に提出したとします。日本国を国際出願の指定から外せば、日本国にした特許出願はその出願日から1年6ヵ月で公開されます (国際公開も優先日から1年6ヶ月ですから時期的にはほぼ同じです) 。その公開を見た第三者が、その公開日から1年以内にその発明に対して進歩性の疑わしい別発明を米国に直接特許出願したとします。この出願に関しては上記のグレース・ピリオドが適用されますので、日本における特許公開及び国際公開は、米国特許法第102条(b)の新規性阻害事由にはなりません。一方、米国を指定した上記国際出願は日本語で国際公開されますので、その国際出願日は米国特許法第102条(e)の適用を受けることができません。従って、この国際出願は、上記第三者の出願に対して米国特許法第102条(e)の新規性阻害事由とはならないのです。米国特許法第102条(a)の適用を受けることは容易ではありません。

これに対して、上記の国際出願を英語で出願しておけば米国特許法第102条(e)の適用を受けることができますが、ヒルマー・ドクトリンにより優先日まで遡ることはできず、米国特許法第102条(e)の基準日はあくまでも国際出願日でしかないのです。また、日本人が初めから英語で国際出願することは、上記1でも説明致しました通り困難な場合も多いのです。

このとき、仮出願制度を利用して日本語で米国に仮出願しておけば、仮出願の日が米国特許法第102条(e)の適用を受けることができるのです。従って、米国において重要であると考える発明は、日本国に特許出願をすると共に米国には仮出願することが得策であると考えます。このような対策を講じている会社もこのところ増えつつあります。

以 上

お問合せはこちらから!!

リュードルフィア特許事務所「業務内容」のページに戻る

リュードルフィア特許事務所のトップページに戻る



リュードルフィア特許事務所は化学関係を主体とした特許事務所です。